お家シネマで癒されましょう

第39夜「映画の中の祈る時間、守り抜く時間」

今宵のテーマは「時間」。
映画 によって、「時間」は運命を分ける岐路となり、どこにも行けない隘路となって現れます。

映画 「僕たちは希望という名の列車に乗った」 祈りの時間のはずだった。

監督・脚本:ラース・クラウメ
原作:ディートリッヒ・ガルスカ
日本公開:2019年

〈Story〉
1956年の東ドイツ。
スターリンシュタットの高校生テオとクルトは、西ベルリンへ抜け出し映画館でハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュース映像を見る。それはソ連による軍事介入で多数の人々が犠牲になったことを報道していた。
2人は級友たちと犠牲者を哀悼するために授業中に2分間の黙祷を行う。
この行為はソ連の影響下にある東ドイツにおいては体制への反逆行為とみなされた。当局の調査が入り、国民教育相から生徒たちに一週間以内に首謀者を明かすこと、それに従わない者は全員退学に処すという通達が下る。
信念を貫き進学が絶たれると労働者、あるいは仲間を密告すればブルジョワジーへの道。生徒たちは決断の時を迎える。。。

「僕たちは希望という名の列車に乗った(2019)」は、現代史の一コマですね。

第二次大戦後、冷戦下でのドイツです。

そうですね。知らない歴史は調べました。

アメリカとソ連が、ドイツを東西二つに分けた後で、ベルリンの壁はまだできていない時ですね。

東ドイツの中にベルリンがあって、そのベルリンも東と西に分かれて、みんなが西ベルリンの方に逃げちゃうから間に壁ができるんですね。
僕はてっきり、東ドイツと西ドイツの境目にベルリンがあると思っていました。

僕もそう思っていましたね。

何故ベルリンだけが真二つに割れたんでした?

ドイツの首都だし、ソ連とアメリカの冷戦構造がそこに凝縮されたんですね。
そのベルリンに東から西に鉄道が通っています。

映画では電車に乗ったら検察官に身分証を見せるシーンがあって、そこをパスしたら自由に行き来ができる。

東側はソ連が抑えた社会主義。そこには西の資本主義に憧れる青年たちがいて、大人たちの中には現体制がいいと思う人もいます。
物語には、4人の男の子が出てきます。仲の良いクルト(トム・グラメンツ)とテオ(レオナルド・シャイヒャー)の二人が西ベルリンに電車で行きます。電車の中で検察官がいるのも社会主義と資本主義の境界だから当然だけど、「お墓参りです」と言えば許可されます。若いがゆえに扇情的なポスターに挑発されて映画館に入ると、本編前のニュース映像で、ハンガリー動乱のことを知ります。
市民たちが立ち上がって、ソ連を押し返している。でもそこで市民に死者がいっぱい出ている。

民主主義を訴えている人たちの姿に感化される。

あれってハンガリーでも同じように共産主義と自由主義の争いがあったっていうことですよね。

ヨーロッパはそういったせめぎ合いで大きくなったり小さくなったりして、その輪郭線がポーランドやハンガリーのあたりで動いています。

当時は社会主義国家を増やそうとして、西側へ拡大しようとする。

今も一緒ですね。

まさにウクライナとかね。変わらないな。

ソ連は諦めないね。その地域には民主主義になりたい人もいるし、変化が怖い人だっているからね。ソ連の体制のままが良いと思う人もいるので難しい。

そうなんだ、国の命令に従うだけ。中国とかロシアとか、社会主義国家って窮屈そうで自分だったら嫌で逃げますね。

ハンガリーの事件は二人が東ベルリンに帰ってきても、みんな知らない。

やっぱ情報統制されていたんでしょうね。

友達パウルのおじさんがアメリカの放送を聴けるラジオを持っていて、みんなでおじさんの家に行ってニュースを聴きます。暴動で亡くなった市民に黙祷を捧げようと教室で言い出して、みんなで2分間の黙祷をするとそれが問題になる。
今回のテーマが「時間」だったので、この2分間の黙祷にしました。

その2分間でね、その後の人生が大きく変わっちゃうわけですね。こっそり黙祷したら何事もなかったんでしょうね。

授業の開始時間にかかっちゃったから、先生が入ってきて
「何をしてるんや」って目的は何なのかと一人ずつ呼び出されます。
みんなで口裏合わせをする。ハンガリー暴動で犠牲になった人の中に有名なサッカー選手がいるから、この人への黙祷にしようと。最初はそれで上手くいけそうやったね。でも調査が始まります。

学校に教育大臣がわざわざ来る恐ろしい社会。

思想的な異物を放っておくと、社会主義に歪みが生じるからね。

国家に違反することを言ったり考えたりするだけでも徹底的に粛清される。

校長先生は、収めようとしてくれますが、外部から視察が入って大ごとになってきます。口裏合わせがだんだんばれて、言い出したのは誰かを聞き出そうとされます。

首謀者探しですね、最初に言い出したのは?

クルトです。

その後、みんなもすぐやろうって賛成しました。堅物のエリックだけが反対します。

ムスッとした子。

エリックはラジオも聴きに行かなかったので、みんなと立場が違う。
そのエリックが尋問で責められます。

お父さんの写真とかを出されて揺さぶられていました。

エリックの母親が再婚する前のお父さんのことですが、すでに亡くなっています。
親たちの時代に東ドイツでベルリン暴動があった。それは東ドイツに反抗する労働者たちのストライキでした。エリックは尋問されながらお父さんは暴動の一味だったと聞かされる。処刑されている写真を公表されたくないなら、今回のハンガリー動乱はどうやって知ったかを言うように詰められて、エリックはついラジオのことを話します。

ラジオを聴かしてくれたおじさんって殺されました?

パウルのおじさんは同性愛者なので、刑務所に入れられると、多分殺される。エリックの証言で連れていかれてしまった。
エリックの今のお父さんも告げ口はいけなかったとすごく怒る。エリックは心が弱いところがあって、精神がだんだん崩れていきます。

参っちゃっている姿が辛いね。

仲間に対して悪いっていう気持ちもある、自分は最初から賛成もしていないし、ラジオも聴きに行っていない、実のお父さんが国家への反逆者だし。思いがひしめいて錯乱するんですね。
銃の練習場で教官の足を撃っちゃって、エリックは逃げて教会に入って行くんだよね。
その教会の中で牧師さんの説教が、ユダの話でした。

へえ〜。それ気づかなかったです。

そこを重ねてきます。最初に告げ口をするのが誰か。

エリックは最後どうなるんでしたっけ?

エリックは逮捕されます。

クルトは自分が言い出したと父親に話します。

お父さんが教育熱心な人でした。

お父さんは市議会の議員で、幹部と繋がっているからエリックの責任にすることで話がまとまっていたよね。クルトに
「首謀者はエリックだと明日言ってきなさい。それで収めるから」と。
クルトは罪を押し付けることに納得できない。お母さんは分かっているから夜中にクルトを逃してあげます。
クルトはテオに会って別れを告げた後、一人で西ベルリン行きの列車に乗ります。途中で検察官がやってきて問いただされて、怪しまれて連れて行かれるんですよ。お父さんが検察に呼び出されます。
「墓参りに行くと言っているが」と訊かれると
「墓参りは習慣で行かせている。私が責任を負います」と答え息子を逃します。
最後はいいお父さんでした。

そうですね。最終的には。

取締当局は、クルトが首謀者だと分かると、
「本当にクルトか」って教室のみんな一人ずつに証言させようとする。すると
「私も賛成しました」とみんなが全員の意思だと言い出します。
「それなら全員卒業できなくなるぞ」って学級閉鎖になります。
そこから彼らの希望の光は西ベルリンしかない。
そして、無事に西側へ行けるのか、その後どうなるか、という映画です。

卒業試験を受けに西ベルリンに行って、合格すれば卒業できる。

西側の学校は受け入れてくれるんですね。西ベルリンに脱出するともう帰って来られない。
テオと家族の別れもいいシーンでした。テオが朝に出て行くのをお父さんは分かっているけどそぶりには出さず二人の弟を学校へ送っていくのをテオがじっと見送ります。

冷戦下のベルリンを舞台にした映画は数あっても、当時の学生を主役に描いた作品は観たことがなかったんで、こんなドラマがあったなんて、実話ですもんね。

こんな視点はなかったですね。
ポーランドの抵抗下の映画には「灰とダイヤモンド(1959)」がありましたね。

聞いたことある、ポーランドですか。

アンジェイ・ワイダ監督の名作です。映像を観ているだけでもすごさを感じる作品です。

抵抗三部作。社会主義に対する抵抗を描いているってことですか。

明らかにナチスに対する抵抗です。「灰とダイヤモンド」と「地下水道(1958)」と。

それと「世代(1981)」

ポーランドの映画って観たことないです。

最近観ましたよ。「人間の境界(2024)」ポーランドの有名な監督の作品。

アグニエシュカ・ホランド監督。

簡単に言うと、時代設定は現在で、シリア人の一家がまずポーランドに隣接しているベラルーシに行くんですよ。ベラルーシからポーランドの国境を越えてヨーロッパに移民できる。それでベラルーシの地元の怪しげな人に金品を渡して国境を越えたら、ベラルーシに連れ戻される、それも乱雑に無理やり引きずられるように。ベラルーシに戻ったらなんで戻って来たんだ、また行けって言う。
ベラルーシが嫌がらせのようにポーランドに対して、「人間兵器」っていう策略をやっていて、その国境を行ったり来たりする状態が続いて、警備隊にいじめられて、傷ついて一家が離散していくさまを描いている。これも実際にあった話です。

今でもポーランド経由で逃げるってよくあるね。

「僕たちは希望っていう名の電車に乗った」の時代設定が1956年で、その後にすぐベルリンの壁が造られるんですよね。

そうだよね。

てことは、30年間ぐらい建っていたわけになる。61年から89年までベルリン市内に存在した。でも壁が崩壊したのってインタビューでの東独政府のお偉いさん(ギュンター・シャボフスキー氏)のうっかり発言が原因で、ベルリンの壁について訊かれて、
「いずれなくなるかもしれませんね」と言ったら、それを聞いたドイツの人たちは「壁なくなるんだ」ってみんなで一挙に壁をバンバンぶっ壊したっていう。うっかり発言した人どうなったのか。

民衆が壊したいのかと思っていた。

今回の作品の原作は「沈黙する教室」です。
監督はナースクラム。他に「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男(2017)」がある。

裁判になった話。

そうそう。ナチス残党のアイヒマンを捕まえるためにあの手この手で奮闘する。あれも面白かったです。アイヒマンが捕まる経緯も描かれているんです。それより検察官自身が同性愛者で、過去に後ろめたい出来事もあるのが上手く物語に絡んでいて観応えがありました。

ナチス残党の物語は、いくつかあるね。

前に観たのは「6月0日アイヒマンが処刑された日(2024)」だったかな。
アイヒマンが、ドイツからアメリカに渡ってアルゼンチンのブエノスアイレスに潜伏していたところを、イスラエルの諜報特務庁に捕らえられる。

みんな南米の方へ行くよね。大西洋を渡ると安心するのかな。

元々イスラエルの法律上では死刑が認められてないから、5月31日から6月1日に切り替わる瞬間を、存在しない日にして死刑を執行しようとする。火葬用の棺桶を用意するのを、とある少年の目を通して描かれていて良かったです。

「ジョジョ・ラビット(2020)」を初めて観ました。良かったです。

「ジョジョ・ラビット」はスカーレット・ヨハンソンが中盤で首を吊るのがショッキングだった。

そうですね。足しか映っていない。

この世界ではジョジョにとってヒトラーが憧れの存在になります。

そういう設定でしたね。ボーイスカウトの感じがする。
他にも「ヒトラー最後の10日間(1973)」っていうヒトラーが最後自決までの数日を描いている作品がありました。既にソ連に攻められていて、ヒトラーが弱っている状態から物語が始まって終始陰鬱でした。そんな時、終焉を悟った高官にちっちゃい子供が3人いるんですよ。その子たちに体が良くなる薬だからと毒薬を呑ませる。これは有名なエピソードで観ていてつらかったです。

小さい時に初めてナチスの映画を観たのが「独裁者(1960)」でした。

チャップリン。

チャップリンは散髪屋さんなんですよ。顔立ちが独裁者そっくり。途中いろいろドタバタがあって、最後に散髪屋と独裁者が入れ替わっちゃうんですよ。独裁者が最後に長い演説をする、その正体は散髪屋さんです。この時がトーキーに変わる時期です。

映画に音が付いた。チャップリン初の完全トーキー作品。

チャップリンが最後の演説で民間人として平和と愛について語ります。

面白そう。この公開が1940年って当時ヒトラーがバリバリの時。

制作のときにチャップリンが暗殺されるかもっていう噂があったんですよ。そんな危険な中で作り上げた作品。

へえすごいな。
「関心領域(2024)」もポーランドでしたよね。アウシュビッツ収容所の横に住んでいるナチスの高官とその一家の生活を描いてアカデミー賞外国語映画賞を受賞した難解な作品でしたね。

途中で義理のお母さんが来るんですよ。お母さんが窓を開けると煙が立ち上っている。

ポスターを見たことあります。

一家が住んでいる家もゴージャスできらびやかなんだけど、不穏な煙が映ったり、川遊びをしていたら骨が流れてきたり、合間にぞっとさせられる描写が続きます。

その高官の人が普通のサラリーマンのようにアウシュビッツに通勤している。
最後は時代が現代に一瞬戻って、今の施設を映します。

現代のアウシュビッツの跡地が資料館のように当時の殺されたユダヤ人の服とかが風景として挟み込まれるトリッキーな演出でしたね。

製作は、A24ですね。

この監督がアカデミー賞のスピーチで、物議を醸していましたよ。
「この作品ではユダヤ人が殺されますけど、今のガザとイスラエルではユダヤ人がたくさんの人を殺している」と言って、賛否両論になっていた。

民族や国籍や主義とか言っても、結局は人と人とが争っているんです。

宗教対立が重なって争っているんでしょうね。

なんでそんな思考になるんやろって思います。

真理はひとつだという宗教は最大の妄想ですね。

それを信じることが自分にとって楽なのかなって思っちゃいます。

拠り所になるのは間違いない。

昔は聖書や経典が法律の代わりでしたから、正悪の判断は神がしてくれるし救済も神がしてくれる。全てを委ねられる世界ですね。世界の大半の人は何かしら宗教の信者です。

時間がテーマなのに逸脱しちゃいましたね。

深い話です。

始まりは2分から。

2分の黙祷って、社会主義への抵抗からかと思っていたんけど、ほんまはそうじゃなかった。

そんなに意識してなかったってことでしょうね。

若者にとっては、ソ連に抵抗してハンガリーで蜂起した人たちが英雄でした。

みんなが一致団結している姿に感銘を受けた。

それも市民だからね。自分たちの国をソ連に支配されることへの抵抗。ハンガリーの状況はドイツにも重なる。ソ連が撤退したらしいぞっていう展開を目の当たりにする。
どんな時代でも体制を覆すのは若者でしかない。いつも若者は体制に抵抗している。

確かに昔の学生って社会的ですよね。政治に関心を持っていた。

今の学生はデモもしないね。

東ドイツと似ているのは、戦後に連合軍に占領されて、アメリカに憲法を作られて、そんな支配から自由を求めて民主化への意識が目覚めて学生運動になりますが、共産主義にも共鳴して、そこに憲兵が叩きに来るから更に反抗する。全学連に発展して安保闘争では東京大学や早稲田大学の戦いになっていきます。

今は、若者が政治に無関心とか言われるじゃないですか。そんな状態と、当時の暴力的でも政治に関心があった時代とどっちがいいんでしょうね。

どっちということはないけどね。「あらかじめ失われた世代(New Lost Generation)」って言われるね。
昔は関わるべき社会的課題があったよね。今は支配への抵抗や考えるべき思想がやり尽くされて、反骨心をぶつける方策はどれも手垢が付いている。

やりがいを見出せなくなっちゃっているんでしょうね。

複雑で見えにくくはなっても、何かあるはずだね。今の社会を一所懸命に見つめていくしかないかな。

Eくん

年間 120本以上を劇場で鑑賞する豪傑。「ジュラシック・ワールド」とポール・バーホーヘン監督「ロボコップ(1987)」で映画に目覚める。期待の若者。

キネ娘さん

卒業論文のために映画の観客について研究したことも。ハートフルな作品からホラーまで守備範囲が広い。グレーテスト・シネマ・ウーマンである。

検分役

映画と映画音楽マニア。所有サントラは2000タイトルまで数えたが、以後更新中。洋画は『ブルーベルベット』(86)を劇場で10回。邦画は『ひとくず』(19)を劇場で80回。好きな映画はとことん追う。

夕暮係

小3の年に「黒ひげ大旋風(1968)」で劇場デビュー。開幕し照明が消えると、大興奮のあまり酸素が不足し気分が悪くなって退場。初鑑賞は、あーなんと約3分でした。

レオナルド・シャイヒャー
トム・グラメンツ
沈黙する教室

2007年にディートリッヒ・ガルスカが著した原作「沈黙する教室 1956年東ドイツ―自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語」。著者は、2018年映画公開の2ヶ月後に惜しくも病気で亡くなられました。

映画 「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」 窮地の一日がループする

監督:ティム・バートン
原作:ランサム・リグズ
日本公開:2017年

〈Story〉
フロリダ州に住むエイブは、孫のジェイクに子供たちを守るためにモンスターと戦っていたと話していた。
16歳になったジェイクは、エイブから電話を受け、アルバイト先の管理者シェリーと祖父の家に向かうが、そこで両目が失くなった状態のエイブを発見。エイブは「ケインホルム島へ行き、1943年9月3日のループへ行け」とジェイクに言い残し、亡くなる。シェリーの後ろにモンスターが出現するが、彼女には見えずモンスターは消えてしまう。
精神科医のゴランからの後押しや、ミス・ペレグリンからの手紙で、ジェイクと父フランクはケインホルム島へ向かうことになった。。。

キネ娘さんのオススメ作品「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(2017)」はタイムループになるかな。

そうですね。作品の中でもループという言葉が出てきますね。

そうね。前回のE君の定義に則るとね。

覚えていますか。

どっちがどっちでしたっけ、タイムリープとタイムループ。

タイムリープが自分の意識だけが過去の自分に飛んでいく。タイムループは、何度も同じ日が繰り返し続く。タイムトラベルは自分の肉体ごと過去に行くので過去の自分と対面することもある。
「ミス・ペレグリン・・・」はタイムトラベル要素もあるもんね。主人公が世界各地のトンネルに行って、時間を遡っていく。特殊能力を持つ「イングリン」たちがある1日を繰り返し過ごしていて、でも普通のタイムループと違うのは本人たちも繰り返していることを意識していること。

そうですね。分かっていながら同じ日をずっと繰り返しているんです。

変えようとせず。

戦争の時にドイツ空軍の空襲があって、孤児院に爆弾が落ちちゃう。その前の時間に戻ることをずっと繰り返している人たちがいて、それを守っているのが特殊能力を持っている「イングリン」たちです。孤児院には透明人間とか空を飛べる能力とかを持った子供たちがいっぱいいるんです。
ミス・ペレグリン役はエヴァ・グリーン。その子たちの目玉を食べたがるモンスターたちから守りつつ、ずっと繰り返す1日の平和を守る人たちの話なんです。
主人公の男の子ジェイク(エイサ・バターフィールド)は普通の男の子で、おじいちゃんのエイブ(テレンス・スタンプ )が冒険の話を語ってくれます。お父さんがエイブを変人扱いして、話は全部嘘だと言う。それでもジェイクはエイブに懐いていたんです。
ある日エイブの家に行ったら家が荒らされていて、エイブは森で倒れていたんですよ。エイブが訳の分からないことをバーって早口で言って亡くなっちゃう。ジェイクはそこでモンスターを見たけど、エイブが死んだ原因は野生動物に襲われたことで片付けられました。
ジェイクはセラピーに行くようになって、治療のためにエイブの故郷の島に行きます。その島には、その孤児院があったんです。

ケインホルム島。ちなみにこの時点での時代設定は現在。

現地にいる子は現代に生きている子たちです。最初に行った時は廃墟になっていたんです。周りの人に言っても、孤児院なんてないよって信じてもらえなくて、トンネルを通って行くと、当時の孤児院がそこにあります。ジェイクはそこで孤児院の周りの時空が変になっていることに気づきます。

トンネルをくぐったら第二次大戦中の1943年にタイムスリップする。それはミス・ペレグリンの能力によるものです。

それはアメリカ? イギリス?

ちっちゃい島で観光で行くような場所ではないです。

そこがドイツ空軍に爆撃される。

雰囲気はヨーロッパっぽい気がします。ミス・ペレグリンがおじいちゃんのエイブを知っていたんですよ。エイブも昔ここにいて、能力者だった。その能力はみんなを狙っているモンスター「ホロー」が見える能力だったんです。

彼にしか見えない。

ループの日にはホローが1匹襲ってくる。来る場所が分かっているのでミス・ペレグリンが退治していたんですね。ホローはめっちゃでかい生き物で、倒した後、殺害現場を示す紐を置いて、毎回この形で倒れるように殺している。ジェイクが「何あれ」と言ったので、エイブと同じく見える能力があることが分かります。

「クワイエット・プレイス(2018)」に出てくる怪物にそっくりです。

丸くて手足が長い。

鎌のような手足で目がない。子供たちの目を狙うのは、それを食べることで生きながらえるからだよね。

そう。元はイングリンだった人たちが、永遠の命を手に入れたくって実験をして、失敗して全員目を失ってしまったんですよ。

異形の怪物になったんですね。

ホローはイングリンの目を食べたら人間の姿に戻れるので、そのために襲ってくる。ミス・ペレグリンたちがイングリンを守っています。実はエイブも死んだ時に目がなかったんでホローに殺されて、しかも現代にも来ていることが分かります。ジェイクしかその怪物を見ることができないので一緒に戦うことになります。

エイブが目玉を食べられたっていうことは、食べたモンスターは人間になっているっていうことやね。

そのモンスターはサミュエル・L・ジャクソンになっているんですよ。

ははは。

それなら、片目食べるだけでもいいね。

確かに。そのサミュエル・L・ジャクソンがその悪者たちのボスのバロンで、いろんな姿に変身できるんですね。ジェイクのセラピストが実はバロンだったことも分かります。バロンに仕組まれて島に来た。そこまでレールが敷かれていました。

バロンは現在で普通に生きていて、ミス・ペレグリンたちの居場所を探していた。

タイムトンネルが見つかって、ジェイクと一緒に付いてきちゃうんですよ。孤児院も襲われる。毎日のタイムループが止まって空襲に遭ってしまいます。そっからめっちゃややこしいんです。

これがね、面白い。

現代に行くために、世界各地にあるタイムトンネルを上手く回りながら身を隠して行かなければいけないんです。タイムリープの連続。果たして現代に戻れるのか、バロンと決着はどうなるのか、という作品です。
孤児院の子供たちの中に仲良くなった女の子エマがいて、ジェイクとエマのその後も見どころです。

ティム・バートン版X-MENですね。

ティム・バートンの作品ではいくつか渦巻きのデザインがあしらわれています。綺麗な円のぐるぐるじゃなくて、歪な形が多くて。エマは空を飛ぶことができて体が軽くて風船みたいに浮いちゃうんで鉛の靴を履いていて、その靴のデザインもぐるぐるになっています。

気づかなかった。

ゴシックホラーっぽくて、子供たちも不気味なんです。ティム・バートンらしくて好きですね。

過去に戻って、歴史を変えることができるの?

過去を書き換えたことによって未来が変わる概念はあんまりないです。だから「バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985)」のような自分が生まれなくなるかもという心配は無いです。

エマはエイブと昔いい感じで、その後にジェイクと会ったけどジェイクの出生には影響はなかった。

でも孤児院が今廃墟になっていることを考えると、空襲にあった世界線のまま進んでいる。

ややこしいな。

パラレルが生まれているからかな。

好きなシーンがあって、ホローが襲ってくる時に電話が鳴るんです。その電話をいつも取っていたペレグリンがさらわれちゃうんですよね。ペレグリンが出られないのでジェイクが出るように言われます。電話の相手はエイブでした。まだ若くて元々孤児院にいて、ホローのことを調べるために旅をしていた。
「そっちは大丈夫か?」ジェイクが電話に出たので、エイブが気づいて
「新しく入った人か?」って訊く。
ジェイクもエイブだと気づいて、
「あなたはまだ出会ってないけど、世界で一番のおじいちゃんになるよ」と言って電話を切る。そこがいいシーン。

周囲からは変わり者のおじいちゃんとしてしか見られなくて、ジェイクだけが唯一慕っていて。よくありますよね。変人のおじいちゃんが実はすごい人だった。

おじいちゃんは何の嘘も言ってなかった。

孤児院もたくさんあったね。

ミス・ペレグリンみたいなポジションの人もいっぱいいて、いろんなルールがあります。

各孤児院で同じ日を繰り返している。ミス・ペレグリンがホローたちに攫われて、代わりにやって来たのが、ジュディー・デンチですよ。あっさり登場してびっくりしました。

すぐ食べられちゃう。

この大物女優を喰うかな。

おじいちゃんはテレンス・スタンプ。「ホーンテッドマンション(2003)」や「ラストナイト・イン・ソーホー(2021)」「スーパーマン(1978)」に出ています。

ゾッド将軍で大活躍、これは新たな発見。エマ役のエラ・パーネルがかわいい子だけど、他の出演作品があまり分からなかったな。

エマが風船みたいに空を飛んじゃう。ループの中で毎回リスが木から落ちてくるんで、そのリスを拾って浮いて木に帰してあげる。その時に、紐を繋いでいないと自分がどんどん上がっちゃうんですけど、その紐を持っていてくれるのがエイブの役目でした。

キネ娘さんはホラー系が好きですか? 悪魔とかティム・バートンとか。グロいのは駄目でしたっけ?

駄目です。

「サンクスギビング(2023)」とか。

一生見ない。「ソウ(2004)」が面白いって聞いて、面白いけどどんどんグロくなって、観られなくなっていく。妹からストーリーを聞くことにしています。

夕暮れさんは過激な描写は大丈夫?

映画なら大丈夫。ドキュメントは駄目、ニュースも駄目。

嘘って分かっていると大丈夫?

そう、作り手の気持ちを感じられるから。

こだわっているなぁって。ですよね。

「ペイバック(1999)」でメル・ギブソンが足の指をハンマーで潰されます。主人公だからと思って油断していたらガンって、びっくりしました。

「007/カジノ・ロワイヤル(2006)」ではダニエル・クレイグが捕まって椅子に座らされて縄で縛られているんです。それをマッツ・ミケルセンが綱引きで使うようなロープをブンブン振り回して、ダニエルの股間を打つのが生々しかったな。

人類の半分しか理解できない痛みですね。

エヴァ・グリーン
エイサ・バターフィールド
ティム・バートン
検分役の音楽噺 ♫

今年、2025年は映画音楽に関連したコンサートの当たり年でもあります。

『ミス・ペレグリン~』のティム・バートン監督といえば、音楽はそのほとんどを担当しているのがダニー・エルフマン(『ミス・ペレグリン~』の時は他の仕事が入っていたため別の作曲家が担当)。
このダニー・エルフマンが来日して、ティム・バートン作品のコンサートが4月に東京のみでしたが開催されました。

続く5月には、数多くの映画音楽を手掛けているハンス・ジマーが来日して、横浜、名古屋でコンサートが開催され、僕は名古屋の公演を聴きに行きましたが、圧巻の3時間でした。

7月には大阪で作曲家アラン・シルヴェストリの作品を中心としたコンサートが開催されますし、8月には東京で日本映画の巨匠たちの作品が演奏されるコンサートがあります。
映画の劇伴としての本来の役割を超えて、純粋に音楽をフルオーケストラの演奏で楽しむのもまた格別です。

また、舞台上にスクリーンを掲げて、本編上映に合わせてオーケストラがスコアを演奏するシネマコンサートもコンスタントに開催されています。
近いところであれば7月に『ジュラシックパーク』のシネマコンサートがあります。

オーケストラのコンサートといえば、クラシックが主流ですが、映画音楽であればとっつきやすいかもしれません。
日頃、コンサートホールにあまり足を踏み入れる機会のない方も、こういった映画音楽に特化したコンサート情報を こまめにチェックしていただいて、生演奏の迫力に身を委ねてみてはいかがでしょうか?

・映画音楽フルオーケストラコンサート:
7月6日(日) 大阪フェスティバルホール

・日本のフィルムスコア 歴史と継承:
8月16日(土) 東京オペラシティホール

・『ジュラシックパーク』シネマコンサート:
7月18日(金) 愛知県芸術劇場大ホール
7月26日(土)・27日(日) 東京国際フォーラムホールA
8月15日(金)・16日(土) 大阪フェスティバルホール

※各コンサートの詳細については公演ホール等へ直接問い合わせを。

(対話日:2024年11月14日)